写真 © Mitsumasa Fujitsuka
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傘の家

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場所
静岡県, 日本
2016

“傘”という、おおらかな形式

東海地方の小さな住宅地、その最奧に敷地はある。背後には樹高20mを優に越える主に落葉広葉樹からなる森林公園が広がり、これに守られるようにして、南には長年丹精されてきた陽だまりの庭が抱かれている。40年来の近所付き合いは、鍵をかける必要もないほどの、気の置けない人間関係を醸成していて、取り壊された旧家屋やその庭は近隣の主婦たちのたまり場のようにも使われていた。穏やかな自然環境と小さな社会的環境は対峙するというよりも、相互に混ざり合うようにして有機的な関係性の編物となり、豊かな生活の場所=風土を生み出していた。

ここで新しく家を建て替えるに当たって、内・外を明確に壁面によって規定する従来型の家屋の形式はふさわしくないように思われた。かといって、心理的な“家”としてのまとまりや中心性がないのも、小さな子供から祖父母まで三世代が暮らすことになる建て主家族には馴染まない。

そこで我々が選択したのは“傘”の形式である。
一本のセンターコラムが錘状の屋根を持ち上げる“吊り屋根”の形式であるため、外周壁は通常のように圧縮力を負担する必要がなく、基本的に構造としてフリーになる(倒れ止め程度にほんの少しの引っ張りを受け持つだけでいい)。これは、周辺環境との多様な関係に応答する“境界”を形成するに都合が良い。中心が最も高くなる空間の形状や大黒柱の存在は、暮らしに程よいまとまりや温かみを与えることだろう。

具体的には、大黒柱を有した木造の方形吊り屋根とし、これを敷地形状に合わせて東西に引き伸ばし、更に西側の森と対面する“丘のような緩勾配の屋根上デッキ”を生み出すよう、中心点を東へと偏心させた。この吊り屋根は町組の軸に揃えられたが、その下の内外境界となる外周壁は、森や太陽光に合わせ、屋根とは“9度”の角度を保って設置された。この角度によって、東側の住宅地と西側の森林公園から直接につながる陽当たりの良い“えんがわ”と、庇付きの幅広の玄関ポーチが生み出され、近隣との接続性を高めている。広々としたえんがわに接する南境界は、間口約18mの連続開口となっているが、これは3m近い片持ち状の庇と合わせて、吊り屋根構造が可能にしたものだ。

我々は、穏やかな東海地方の風土に、一本の傘を差し出したのだ。開かれた傘は環境条件によって大らかにゆらぎ、その下には周囲から自然と人々が集まり来て、そして伸びやかに暮らしていくことだろう。東京在住の、建て主にとっては長男でもある建築家は、そんな未来の様を思い描いている。

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